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富山地方裁判所高岡支部 昭和44年(ワ)127号 判決

原告

杉シズ

ほか一名

被告

中井観光株式会社

ほか一名

主文

一、被告らは、原告杉シズに対し金三、七八五、八二二円およびこれに対する昭和四二年七月二三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告らは原告杉長作に対し金二五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年七月二三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告らのその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

五、この判決の第一、二項は仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める判決

(原告ら)

一、被告等は連帯して原告杉シズに対し一金四、一五九、五三六円並びに右金員に対し昭和四二年七月二三日以降完済に至るまで年五分の割合に依る金員を加算して支払え。

二、被告等は連帯して原告杉長作に対し一金五〇〇、〇〇〇円並びに右金員に対し、昭和四二年七月二三日以降完済に至るまで年五分の割合に依る金員を加算して支払え。

三、訴訟費用被告ら負担。

四、仮執行の宣言。

(被告ら)

一、請求棄却

二、訴訟費用原告ら負担

第二、原告らの請求の原因

一、本件事故の状況および訴外大竹勝義の過失

訴外大竹勝義(以下、大竹という)は昭和四二年七月二三日午前九時ごろ普通乗用自動車(富五な七九一三)(以下、加害車ということがある)を運転し、高岡市伏木国分一の二(原告ら居宅前)の県道魚津氷見線上を高岡市米島方面より同市太田方面に向け時速四〇粁で進行中、前夜キヤバレー「赤い靴」の従業員一二、三名と共に海水浴に行きビール等を飲み一睡もしなかつたので極度に疲労しねむ気を覚え、前方注視が困難な状態に陥つたので、直ちに運転を中止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り漫然前記状態のまま運転を継続した過失により、運転中仮眠状態に陥り、自車を道路左側の路外に暴走させ、右道路左側の原告長作方玄関前に立つておつた原告シズおよび訴外岡部澄子に激突させ、これを跳ね飛ばし、原告シズに右下肢挫滅創、右下腿骨開放性骨折、左下肢腰部挫創の重傷を負わしめたものである。

二、被告らの責任

被告会社はホテルの経営、登山、観光事業の投資および経営の外に、風俗営業取締法によるキヤバレー経営等の業務を営み、高岡市下関町にキヤバレー「赤い靴」を開設している。また、被告中井は被告会社代表取締役中井英治の妻であつて右「赤い靴」の業務担当者として前記加害車を保有し右「赤い靴」の宣伝カーとして毎日のように運行の用に供しているのである。また大竹は被告会社に雇われ「赤い靴」のボーイ兼運転手として右加害車の運転の業に従事しているものであり、前記事故当日も「赤い靴」の事業の執行として加害車の運転をしていたものである。

よつて、被告会社は民法七一五条に基づき、被告中井は自賠法三条に基づき責任を負うべきものである。

三、原告らの損害

原告シズは前示の受傷により同日伏木病院に於いて右下肢部で切断の手術を受け、昭和四三年四月三日まで約八ケ月余り入院し、引き続き通院加療中のものであるが、前記の右下肢は膝から約九センチ以下の部位で切断欠損し、膝関節の運動著しく障害され、終生義足と松葉杖により辛うじて歩行するの状態である。

依つて原告らの蒙つた損害は次の通りである。

(原告シズの損害)

(一) 金七、五二二円也

但し昭和四三年八月一九日より同四四年四月一二日までの伏木病院通院治療費。

(二) 金四、九二〇円也

但し昭和四四年二月一二日より同年三月二九日までの伏木病院へ通院の自動車賃である。(宝田タクシー分)

(三) 金二〇、〇六〇円也

但し伏木病院入院中の豆炭あんか貸付料及び附添食等。

(四) 金二、二〇〇円也

但し松葉杖及びゴム代等。

(五) 金六〇、〇〇〇円也(義足代)

但し一回三年半毎に取換え予定金額

(有限会社富山義肢製作所、森田忠義)

(六) 金二、〇八七、八三四円(逸失利益)

但し右金員は原告シズが家事に従事し、傍ら、アルバイトとして雨晴海岸ホテルで雑役に従事し年間を通じ金三〇、〇〇〇円程度の副収入を得ていたもので、家事の主婦に対しては一日七〇〇円の割合を以つて、年間金二五五、五〇〇円と前記の副収入を加えると金二八五、五〇〇円となる。

原告シズは大正三年一〇月生であるから、運輸省自動車局保償課の定める就労可能年数一〇年に、ホフマン式計算による係数七、九四五で計算し、且つ同原告の後遺症は労働基準局の四級(百分の九二)を以つて計算したる金員也。

(七) 金五一二、〇〇〇円也

但し入院中の慰藉料一日二千円として(二五六日分)

(八) 金三七五、〇〇〇円也

但し昭和四三年四月三日より同四四年四月一二日まで通院中の慰藉料一日一、〇〇〇円の割合による金員(三七五日分)

(九) 金二、〇〇〇、〇〇〇円也

但し前記傷害によつて歩行が困難となり、終生不具者として家庭生活に従事することができず、その肉体的、精神的苦痛は当然被告において賠償すべき義務があるものである。

(原告長作の損害)

(十) 金五〇〇、〇〇〇円也

但し原告長作は、妻である原告シズの前記の如き後遺症及びその治療のため日本海産業(株)の勤務を長期日欠勤し、円満なる家庭生活を阻害せられ、今後も同原告の後遺症状に対する不安と日常生活においては常時助力を必要とするをもつて、その精神上に蒙る負担に対しては之れ又、慰藉すべき義務あるものとする。

(原告両名の損害)

(十一) 金三〇〇、〇〇〇円也(弁護士費用)

但し、被告会社は本件事故につき、相当額の任意保険を安田火災海上保険会社と締結しおるため、右保険金の範囲内において示談の申入があつたので、原告らにおいて金四、〇〇〇、〇〇〇円をもつて円満示談成立せしめんとしたるところ、前記保険会社においては右金員より原告らに前渡ししたる金一、二二〇、〇〇〇円を控除した残金をもつて解決を申し出たので、原告らの和解条件と著しく齟齬があつたので遂に示談不調となつたので、已むなく原告ら代理人をして本訴提起を委任し、着手金五〇、〇〇〇円を支払い、本訴の判決言渡しと同時に金二五〇、〇〇〇円を支払うことを約したものである。

四、原告シズがすでに受取つた保険金一、二二〇、〇〇〇円を控除したうえ、被告らは(被告会社は自賠法三条に基づき、被告中井ひさは民法七一五条に基づき)連帯して原告らに対し請求の趣旨どおりの金員を支払うよう求める。

第三、請求の原因に対する被告らの答弁

一、請求の原因一項の事実中、昭和四二年七月二三日大竹が高岡市伏木国分において、加害車の運転を過り、原告シズに重傷を負わせた事実は認めるが、その具体的内容を争う。

二、同二項の事実中、大竹の事故当日の加害車の運転が「赤い靴」の事業の執行としてなされたとの点は否認するがその余の事実は認める。

しかし、被告らが責任を負うべきであるとの主張は争う。加害車は被告会社の宣伝専用車であつて被告中井個人が自己のために自動車を運行の用に供する者であるということはできない。

三、同三項の事実中、原告シズの重傷、入院の事実は認めるが、その余は争う。

四、同四項の原告シズの保険金受取の事実は認める。

第四、証拠〔略〕

理由

一、〔証拠略〕によれば請求の原因一項の事実が認められる。

二、同二項の事実は、大竹の事故当日の加害車の運転が「赤い靴」の事業の執行としてなされたとの点を除き当事者間に争いがない。

そして〔証拠略〕によれば、本件事故当日の前夜「赤い靴」閉店後、大竹を含め「赤い靴」の従業員(ボーイ)一二、三人が海水浴に行くことになり加害車外一台(いずれも「赤い靴」の業務用自動車)に分乗して雨晴海岸に海水浴に行つたが、その翌朝大竹は加害車を運転して右従業員四人を高岡駅まで送り、更に右海岸に残つている従業員二、三人を迎えに行くため右海岸に向つているときに本件事故を起したこと、加害車には従前より、その屋根上に宣伝用スピーカー二個が取付けられてあり、運転席ドアー外側には中井観光自家用との表示がなされていたことが認められる。そして以上の事実によれば大竹の本件事故は被告会社の事業の執行につきなされたものというべきである。

よつて、被告会社は民法七一五条に基づき、被告中井は自賠法三条に基づき責任を負うべきものである。

三、〔証拠略〕によれば、原告シズは前記受傷により同日伏木病院において右下腿部を膝から約九糎下の部位で切断手術を受け翌四三年四月三日まで八カ月余り入院し、その後も翌四四年四月一二日までの間実日数で五三日通院したものであるが、終生義足と松葉杖により辛うじて歩行しうる状態であり、右障害の程度は右膝関節が不良位に強直し関節機能を廃しているので実質的にみて身体障害等級第四級に該当するものであることが認められる。そこで本件事故と相当因果関係にある損害の額を次のとおり認める。

(原告シズの損害)

(一)  金五、〇九七円

但し、昭和四四年二月一二日から同年四月一二日までの伏木病院通院加療費(〔証拠略〕により右の限度で認める)。

(二)  金一一、九〇〇円

但し、昭和四三年四月九日より同四四年三月二七日までの伏木病院通院のタクシー代(〔証拠略〕により認める)。

(三)  金一五、三七五円

但し、伏木病院入院中の豆炭あんか貸付料、原告長作付添食費およびテレビ使用料(〔証拠略〕により認める)。

(四)  金二、二〇〇円

但し、松葉杖および同付属ゴム代(〔証拠略〕により認める)。

(五)  金六〇、〇〇〇円

但し、すでに取替済の二度目の義足代および三、四年後に取替予定の三度目の義足代(〔証拠略〕により認められる)。

(六)  金二、〇六一、二五〇円

但し、身体障害等級第四級の後遺症による労働能力喪失率九二%(労働基準監督局長昭和三二、七、二基発第五五一号別表)、原告シズの就労可能年数一〇年(大正三年一〇月生れ)(法定利率による単利年金現価率は七・九四五)、原告シズの主婦としての家事従事不能による休業損年間二五二、〇〇〇円(一日七〇〇円の割合)、三立不動産有限会社経営の雨晴海浜ホテル等での雑役従事不能による休業損年間三〇、〇〇〇円に基づき算出した逸失利益(〔証拠略〕により認める)。

(七)  金二、六〇〇、〇〇〇円

但し、本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰謝料

(〔証拠略〕)

(原告長作の損害)

(八) 金二〇〇、〇〇〇円

但し、原告シズが本件事故を受けたことにより夫たる同長作の被つた精神的苦痛に対する慰謝料(前記認定事実の外、〔証拠略〕によれば、原告シズは本件事故により八カ月余の入院生活、一年間の通院生活を送つたうえ、右下腿部を膝から約九糎下の部位で切断欠損したもの(実質的にみて身体障害等級第四級に該当)で、終生義足と松葉杖により辛うじて歩行しうる状態であり、現在家の中では車いすに乗るかはつて歩く状態であるが、炊事、洗濯、掃除等の家事はほとんどできないため夫の原告長作にこれらをやつてもらい(原告ら夫婦には子供もなく二人暮らしである)、入浴の際も原告長作に一緒に入つて身体を洗つてもらうなど、日常生活において常時助力を必要とするものであつて、このため原告長作としても、円満な家庭生活、職業生活を阻害され精神的、肉体的に多大の苦痛を被つており、しかもこの苦痛は今後も継続するものであり、二人暮らしであるため将来の不安も大きい(原告シズは大正三年生れ、同長作は明治四三年生れである)ことが認められ、右事実によれば本件事故により原告長作は同シズが生命を害された場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたものというべく、同長作においても自己の権利として慰謝料を請求できるものというべきである。)

四、前記三の(一)ないし(七)の合計額四、七五五、八二二円が原告シズの、同(八)の二〇〇、〇〇〇円が同長作の、本件事故によつて被つた弁護士費用を除く各損害ということができるが、原告シズがすでに受領した保険金一、二二〇、〇〇〇円を差引くと同原告の損害残額は、三、五三五、八二二円となる。そして、〔証拠略〕および本件事案の難易、請求認容額その他諸般の事情によれば本件弁護士費用として原告シズは二五〇、〇〇〇円、同長作は五〇、〇〇〇円の各支払いをも被告らに対し請求できるものというべきである。

五、よつて、原告らの被告らに対する本訴請求中、原告シズに対し三、七八五、八二二円、同長作に対し二五〇、〇〇〇円および右各金員に対する本件事故発生の日である昭和四二年七月二三日以降各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古川正孝)

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